島根県立松江北高校 出前授業

島根県立松江北高校 出前授業

日時2014/11/7
場所島根県立松江北高等学校
対象普通科および理数科の 2 年生 150 名
担当者浅岡、沖中、舘洞、三戸、長田、穂坂、宮内、村仲

概要

島根県立松江北高校で普通科理系と理数科2年生の生徒を対象に出前授業を行いました。生徒たちは以下の4つの授業から好きな授業を選択し受講しました。

授業1: 「実習:木星の観測写真から、その質量を求める」

講師: 三戸 洋之(東京大学木曽観測所 )

木星には4つの大きな衛星 があり、小型の望遠鏡でも確認することができます。その中で最も周期の短いイオは1.7日ほどで木星を一周し、一晩の間でもその移動がわかるほど高速で動いています。今回は生徒と一緒に、4日間にわたって撮られた写真を使って、衛星の運動を研究し、木星の質量を求めることに挑戦しました。 授業ではまず万有引力の式と円運動の式から「衛星の運動周期 の2乗は衛星の半径 の3乗に比例する」という「ケプラーの第3法則」を導きました。 そして東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター木曽観測所で撮影されたガリレオ衛星の連続画像から衛星の位置変化を測定し、グラフにしました。グラフより衛星の運動の振幅 と衛星の運動周期が求められるので導き出したケプラーの第3法則を使って木星の質量を求めました。

講義風景
講義風景

今回は短い時間の中、普段物理を選択していない生徒もおり、長い計算過程やグラフから情報を読み取ることに苦労していましたが、無事に質量をもとめられた生徒は本当に写真から木星の質量を求められることに驚いていました。

実習風景
実習風景

今回の授業では実際に木星を見たことがある生徒は少なかったですが、これを機に是非見てみたいという声が多く上がりました。

(記: 沖中)

授業2: 「コンピュータで数学をしよう」

講師: 穂坂 秀昭(東京大学大学院数理科学研究科 博士3年)

穂坂は、身近にあるソフトウェアや無料で配布されているいくつかのソフトウェアを用いて、数学の演習を何個か行いました。

コンピューター室での実習
コンピューター室での実習

授業の前半では、GeoGebra という無料ソフトを使って、中学生で習う作図をコンピュータの上で行いました。まず、角の2等分線の作図の演習を行いました。最初に穂坂がお手本をやってみせて、その後、生徒のみなさんに実際に手を動かして演習をしてもらいました。GeoGebraで作図した図形は描いた後でも自由自在に動かせるので、多くの生徒は楽しみながら演習をしていました。その後、三角形の五心(内心・外心・重心・垂心・傍心)の中で好きなものを選んでもらって、生徒の皆さんに色々動かして遊んでもらいました。

GeoGebra による作図の様子
GeoGebra による作図の様子

次に、穂坂がLaTeX の簡単な紹介をしました。LaTeXとは、コンピュータ上で文書を作成するためのソフトウェアの事で、扱うのに少し慣れが必要ですがとても綺麗な文書を作成することが出来ます。授業で用いたスライドも実はLaTeXで作っている事を生徒達に教えました。 授業の後半では、生徒にも馴染み深いMicrosoft Excel で、簡単な実習を行いました。まずは、フィボナッチ数列 を生徒に計算してもらい、そのグラフを描いてもらいました。次に、円周率の近似計算の実習を行いました。そして、誤差を目で見て分かりやすく理解するために生徒にグラフで描いてもらいました。生徒は、Microsoft Excelでこのような事が出来ることにとても驚いていました。

円周率の近似計算と誤差評価
円周率の近似計算と誤差評価

最後に、Wolfram Alpha というウェブサイトを用いてデモを行い、電卓やExcelだけでは出来ないような少々高度な計算を手軽に、かつ無料で出来る事を紹介しました。 生徒は、穂坂の準備した演習をとても楽しく行っていました。普段使った事の無いソフトウェアを用いて数学に触れる事が出来て、また、少々複雑な計算も手軽にかつ無料で出来る事を知ることが出来て、生徒はとても有意義な時間を過ごせたようでした。

(記: 長田)

授業3: 「銀河の世界へようこそ?宇宙をカガクする?」

講師: 舘洞 すみれ(総合研究大学院大学 物理科学研究科 5年一貫制博士課程 4年)

この授業では、銀河系や銀河について概説しました。まず我々の住む太陽系からスタートし、銀河系、局所銀河群、銀河団とスケールを広げ、そもそも銀河とは何か?について学びました 。さらに綺麗な写真 を使いながら、代表的な近傍銀河や、遠方銀河の特徴について理解を深めました。

計算問題を解く生徒たち
計算問題を解く生徒たち

また授業の中では、(1)紙を何回折ると太陽に届くか、(2)大きさ・距離・視角 の関係について演習問題を解いてもらいました。指数・対数や円の計算に頭を悩ませていたようですが、各自で手を動かすことで、宇宙を身近に感じることができたようです。

情報量が多く全体的に内容は難しかったようですが、授業後には個人的に質問に来るなど、宇宙への関心が深まったようでした。

授業のひととき
授業のひととき
(記: 宮内)

授業4: 「人間と機械語の架け橋」

講師: 浅岡 宏光 (名古屋工業大学大学院工学研究科 修士2年)

今回の浅岡による出前授業では、アナログとデジタルの違いにつての説明が行われました。 アナログとデジタルどちらが優秀なイメージか?自己紹介の後、浅岡は生徒の皆さんに問いかけ、授業はスタートしました。アナログ信号とデジタル信号を波にして比べてみました。一見どちらもなめらかな波に見えますが、拡大してみると違いは一目瞭然で、デジタル信号のほうは階段のようにギザギザした曲線になっていました。つまり 、アナログは時間的データ的 に連続していますが、デジタルは時間的・データ的に離散化されていると分かりました。また、デジタル信号の場合は“0”と“1”の符号のみで表されます。

途中、実際に全身を使った、アナログとデジタルでの伝送実験が行われました。

アナログとデジタルでの伝送実験
アナログとデジタルでの伝送実験

最初は緊張気味だった生徒の皆さんも、アナログとデジタルでの伝送実験では興味津々といった様子で、積極的に行動していました。お互いをよく知っていないと難しい実験ですが、生徒の皆さん正解率は高く、日ごろから仲が良いのだと感心しました。

(記: 宮内)

授業5: 「原子が出す光 ~一番近い宇宙を探る~」

講師: 村仲 渉(信州大学大学院理工学系研究科 修士2年)

まず、生徒の皆さんには自分の手で光を波長ごとに観察する「分光器」を作ってもらい、自作した分光器で原子自身の出す光を観察してもらいました。 この後、実験で使う旨を伝えたところ、生徒の皆さんは何度も講師の指示を確認しながら丁寧に慎重に分光器を作っていました。しかし同じテーブルの友達と互いに教え合いながら分光器を作る姿はとても楽しそうでした。完成した分光器を使って、酸素や水素、ヘリウム、ナトリウムが封入されたスペクトル管を発光させ、作った分光器で光を観察しました。水素を発光させると紫色の放電が見られましたが、分光器を覗くと赤と青の2本の輝線が見え、分光器を覗く生徒たちからは「おおー!」という驚きの声が上がりました。

ナトリウム光の観察
ナトリウム光の観察

その後、村仲が普段行っている原子が放つ光を利用した研究について紹介がありました。 上空80km~110kmの中間圏界面を調査する手法のひとつに「ライダー観測」があります。地球と宇宙の境界の上空100kmに存在する金属原子層に向けレーザーを打ち、金属原子を励起させ、金属原子の出す光を望遠鏡で観測することによって中間圏界面を探査する観測手法です。一番近い宇宙である中間圏界面の様子は詳しく知られていないことが説明されました。ライダー観測によって太陽風など太陽からの影響、また金属原子層の様子から温暖化や火山活動、気象などの地球の環境について考えることができます。中間圏界面について調べれば、今よりも地球・宇宙を詳しく知ることが出来るという話に、生徒の皆さんは熱心に耳を傾けていました。

中間圏界面の講義
中間圏界面の講義
(記: 沖中)

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