集合写真

銀河学校2018

日時2018/3/27 - 3/30
場所東京大学木曽観測所
対象生徒24名(中学3年生~高校3年生)
担当者大澤*、西村*、宇野*、大島、森井、陳、沖本、島田、谷口
(*印はScience Station以外のスタッフです)

長野県にある東京大学木曽観測所にて銀河学校2018を開催しました。

今年の銀河学校の生徒の人数は近年の銀河学校より少なく、少数精鋭で木曽105cmシュミット望遠鏡を用いた天文学観測研究に挑戦しました。生徒はA班とB班の2つの班に分かれ、どちらの班も「Hα線」という光をキーワードに、A班は天の川銀河(我々の棲む銀河)内部の星雲について、B班は天の川銀河以外の銀河について、研究しました。また、今回の銀河学校では、2018年2月にファーストライト(初めての観測)に成功したTomo-e Gozen Q1カメラという、木曽観測所で開発中の世界初の広視野高速CMOSカメラを用いた天体観測を行いました。

弊法人からは6名のスタッフが参加し、3泊4日にも渡る長くも短い実習をサポートしましたので報告します。

講義の様子
講義の様子

A班:星雲の色から光の起源を探る

かに星雲やバラ星雲など、星雲はモヤモヤとしたガスのようで、様々な形をしています。その一方で、自ら光を放つ恒星は点のように見え、星雲とは見た目が全く異なります。A班は、星雲がどのように光っているのか疑問を持ち、「星雲はなぜ光るのか?」をテーマに研究を行いました。

1日目の夜に、広視野CMOSカメラTomo-e Gozenを使用して、木曽105cmシュミット望遠鏡で馬頭星雲と星雲NGC2068の観測を行いました。それぞれの星雲を、赤色の光のみを通す「rフィルター」、緑色の光のみを通す「gフィルター」、水素のHα線のみを通す「Hαフィルター」を用いて観測しました。

2日目と3日目は解析と考察を行いました。基本的な画像の補正をした後、星雲のガスのような部分と星雲の近くにある恒星の測光(明るさの測定)をしました。その後、縦軸と横軸に異なるフィルターを通過した光の強度の比(横軸に赤色光と緑色光の強度比であるr/g、縦軸にHα線と赤色光の強度比であるHα/r)をとり、測光結果をプロットして「二色図」と呼ばれるグラフを作成しました。

Hα/rの値を分析することで、それぞれの星雲のタイプが推定できました。具体的には、NGC2068は二色図上で恒星と似たようなところにプロットが分布した、すなわち、光の成分が恒星と同じであったことから、恒星が放つ光を反射することで光る「散光星雲」であり、光をよく反射する固体の微粒子の集まりであると考えました。一方、馬頭星雲はHα線を強く発していたことから、生まれたての星が発する紫外線よって電離された水素が電子と再結合するときに発するHα線で光る「輝線星雲」であるという考察を得ました。

また、r/gに関して、馬頭星雲付近の恒星は小さく(青い)、NGC2068付近の恒星はやや大きい(赤い)ところに分布していました。馬頭星雲付近の恒星が青いのは生まれたばかりでエネルギーが大きいからであり、NGC2068付近の恒星が赤いのは年老いてエネルギーが小さくなったからだと考察しました。そして、NGC2068は散光星雲であることに対し、馬頭星雲は輝線星雲であり、若い星が付随する星雲に特徴的な輝線を発していることと合わせて、馬頭星雲はNGC2068よりも若い星雲であると考察しました。

上記の考察は、高校生が活発に議論し、自ら導き出したものです。論理的に筋が通っており、素晴らしい考察だと思います。3日目の午後に行われた口頭発表会では、研究内容を初めて聞く人にもわかりやすいように工夫した発表を見せてくれました。他班の生徒や木曽観測所の研究者からのたくさんの質問に、堂々と答える姿が印象的でした。4日目の午前に行われたポスター発表では、前日の発表より長く時間が取れたこともあり、さらに激しい質疑応答が繰り返され、盛り上がっていました。

生徒たちは充実した4日間を過ごし、あっという間に終わってしまったと感じているのではないでしょうか。銀河学校での経験が、何らかの形で今後の進路選択に良い影響を与えることを願っています。

口頭発表会の様子
口頭発表会の様子

B班:銀河に咲く赤い花—星が生み出される現場—

もともと宇宙には星はありませんでした。宇宙に広がる水素が自らの重力で集まり、長い年月をかけて星とその集団である銀河ができました。星が作られている場所では、「Hα放射」と呼ばれる「特殊な赤い光」が出ています。星が多く作られている場所ほどHα放射は強く出ているため、望遠鏡で銀河からのHα放射の強さを観測すると、その銀河が一年あたりに何個の星を生み出しているのかを計算することができます。星はどのような場所で生まれているのか?銀河の年齢は?B班は銀河に関する様々な疑問に挑戦しました。

1日目の最初に、班長から生徒へ手渡されたのは英語で書かれた論文だけでした。ここからは生徒たちが主体となって研究を進めていきました。論文にかかれていた内容は、

  • 銀河が一年あたりに生み出す星の質量である星形成率(Star Formation Rate、以下「SFR」とする)の意味
  • SFRとHα放射の強度との関係式
  • 先行研究によって調べられた様々な銀河のSFR
というものでした。これらの情報を元にSFRを測定するとおもしろそうな銀河を、この日の夜に観測することができる銀河の中から探しました。そして選ばれたのは以下の星と銀河たちでした。
  • HIP63698:銀河の星質量を求める際に標準となる恒星。明るさの比から他の銀河の星質量を求めた。
  • M51:他の銀河のSFRを求める際に標準となる銀河。既にSFRが測定されている。
  • NGC4567:銀河同士が衝突している銀河。
  • M82:爆発的星形成(スターバースト)を起こしている銀河。
  • M106:標準的な渦巻き銀河。
これらの銀河が何時にどの方角に見えるのかを調べて望遠鏡を向ける方向を決め、実際に木曽105cmシュミット望遠鏡を動かし観測を行いました。

2、3日目は解析と考察を行いました。12人の生徒は3つのグループに分かれて、それぞれ、星形成率の標準となるM51と担当の銀河を測光し、SFRと銀河の星質量を求めるための解析を進めました。それから、これらの測光結果を用いて様々な疑問へ挑戦する考察をする時間に入りました。解析を進める中で生じた疑問を皆で検討し、

  • 銀河の形とSFRの関係の調査
  • 銀河の星質量とSFRの関係の調査
  • NGC4567のSFRが場所によって負の値をとってしまった(負の数の星が生まれていることを示す)疑問の調査
以上3つの問題に取り組む3グループへ再編して考察を進めていきました。最初のグループは銀河の断面を測光した結果、銀河の中でもSFRは場所によって異なり、銀河の中心で多くの星が作られていることに気がつきました。星質量とSFRの関係を調べたグループは先行研究との比較から定量的に銀河の分類がなされることを理解しました。また銀河の星質量をSFRで割ることで銀河の年齢を推定しました。NGC4567については解析手法にミスがないか、解析していない人による二重チェックが行われましたが、ミスは見つかりませんでした。

3日目の午後に口頭発表を、4日目の朝にポスター発表を行いました。それぞれの発表で研究の成果を発表しました。NGC4567の測定における疑問は、天体写真の補正を行う際の処理に由来するものではないかと、これらの発表会の中で糸口がつかめたようでした。

生徒の皆さんは今回の実習で、実際の研究と同じ、課題を発見しそれを解決していくという過程を経験しました。彼らは今後の生活、学業などの中でも今回の研究経験を活かしていくでしょう。

口頭発表会の様子
議論の様子

関連リンク