第 20 回銀河学校

銀河学校2017

日時2017/3/28 - 31
場所東京大学木曽観測所
対象生徒37名 (中学3年生~高校3年生)
担当者猿楽、諸隈*、植村、島、北村、谷口、大島、陳、衣川、山口*、鈴木*、鹿熊*
(*印はScience Station以外のスタッフです)

長野県にある東京大学木曽観測所にて、銀河学校2017を開催しました。

今年で第20回目となる今回の銀河学校においても、全国各地から37名の中学生・高校生たちが集まりました。そして、A,B,Cの3班に分かれて、口径105cmシュミット望遠鏡を用いた天文観測実習を行いました。

どの班のテーマも考えれば考えるほど奥が深く、知的好奇心を揺さぶるような充実した内容でした。弊法人からは8人のスタッフが参加し、実習における学術的な指導及び、3泊4日にわたる共同生活をサポートしました。

講義「天体観測の入り口」
講義「天体観測の入り口」
望遠鏡見学
望遠鏡見学

以下、その内容をレポートいたします。

A班 明るい彗星には暗い未来

A班では、「明るい彗星には暗い未来」をテーマに、地球に接近していた短周期彗星と非周期彗星の中で明るいものを観測しました。

これらの彗星の観測されたデータを解析することで、その彗星の特性や状態を知ることができ、彗星の未来の姿を推測することができます。

A班では、ターゲットとして

  • 41P タットル・ジャコビニ・クレサック彗星
  • 45P 本田・ムルコス・パイドゥシャーコヴァー彗星
  • C/2015V2ジョンソン彗星
という名前の3つの彗星を選び、2種類の異なる波長のフィルターを用いて105cmシュミット望遠鏡で観測を行いました。これらの彗星の明るさを求めるために基準となる星の明るさを測定し、 基準星の等級と比較して、彗星の中心部に当たるコマの明るさを測定しました。それらのグラフのデータをまとめ2日目に中間発表を行い、 質疑応答で他班の生徒と意見を交換し合いました。その後、測光したデータから計算式を用いて彗星のガスの1秒当たりの放出量を求め、 彗星から放出されるチリなどのダストと、同時に排出されるガスの比は同じであることを利用し、彗星のガスの総量を算出しました。

口頭発表会ではそれらのデータをまとめ、それぞれの彗星の今後の実態について他班の生徒に伝わるようにわかりやすく発表しました。

また、口頭発表会で議論できなかったことについて4日目の朝のポスター発表会にて議論を重ねました。

全日を通して班全体が早くに打ち解け合い、データ解析の大変さを忘れさせるような白熱した議論を交わしていました。

A班 解析・議論の様子
A班 解析・議論の様子
(記: 島)

B班 銀河系(われわれの銀河)の姿を探れ!

私たちの住む地球が含まれる太陽系は、2000億個ともいわれる恒星たちと共に、銀河系という星の集団を形成しています。 しかし、私たち人類は、銀河系を外側から眺めてみたことがありません。

そこでB班は、銀河系はどのような構造をしているのかを解明しようという目的の元、105cmシュミット望遠鏡と天文学を駆使して、研究を行いました。 観測対象は、銀河面をとらえた、おうし座領域のかに星雲(M1)付近です。

1日目は、天体観測及び、観測データを補正する作業を行いました。 2日目の作業は、観測データの解析です。まずは、観測データから観測した星の明るさを測る作業を行いました。 はじめ画像解析ソフト「マカリ」を用いて手動で測光を行っていましたが、後に「SExtractor」というソフトを用いて測光を自動化し、数千個もの恒星の測光結果を得ました。

測光では、星の色を数値化して得たいので、特定の色を見分けるためにフィルターを用います。今回はVバンド(可視光波長よりの色の光を選ぶフィルター)とIバンド(赤外線波長よりの色の光を選ぶフィルター)を用いて、それぞれの測光を行いました。 そして「OPM」というソフトを用いて、同じ恒星の測光データをマッチングさせました。こうして、恒星ごとのVバンドでの等級、Iバンドでの等級をそれぞれ得ることができました。

次に、実際の見かけの等級がわかっている恒星(基準星)を参考にして、得られた等級のデータを実視等級(実際の見かけの等級)の値へと補正しました。 続いて、それぞれの恒星の色指数(Vバンド-Iバンドの値)と実視等級のデータを、文献データである「色等級図」と比較することにより絶対等級を得ました。 そして、絶対等級と実視等級がわかったので、恒星の本来の明るさが距離の2乗に反比例して暗くなるという法則を用いて距離を算出しました。

これより、「どのくらいの距離に、どのくらいの数の恒星があるのか」を示すヒストグラムを作成し、得られたデータから何がわかるのかについて、2日目の夜から3日目に渡って班長・TA含むB班全員で議論を行いました。 生徒たちとしては考えることが難しかったかもしれませんが、良い経験になったと思います。

生徒たちは、地球からおよそ3000[pc](=約9800光年)の距離に恒星の数のピークが存在することを示すヒストグラムから、 銀河系は腕の構造を持つ渦巻き型の銀河であるということを結論付けました。3日目の発表会では得られた結論を他の班の生徒たちにわかりやすく伝えるために、 しっかりと順序立てた丁寧な発表を行っていました。質疑応答では、白熱した議論が展開し、大変素晴らしい発表会でした。

一連の研究活動を通して、生徒たちは天文学や科学の方法について学ぶことができたと思います。今回の経験を今後の研究活動に活かしてもらいたいです。

B班 口頭発表会の様子
B班 口頭発表会の様子
(記: 北村)

C班 星のないところにガス?

宇宙には、様々な種類の銀河が存在しています。子持ち銀河や回転花火銀河と呼ばれるタイプの渦巻きを持った銀河もあれば、比較的丸い形をした銀河もあります。 その中には、「ガスからの光が強く観測されるのに、そこには星の光があまり観測されない」銀河が存在することが知られています。 ガスは塵とともに星をつくる元になると考えられていますが、このガスからは星ができないのでしょうか。 C班では、木曽観測所にある105cmシュミット望遠鏡でいくつかの銀河を観測し、星とガスの分布について調べ、この疑問に挑戦しました。

1日目は、まず生徒たちに銀河と星、そしてガスの関係について簡単な紹介を行い、観測手法について説明をしました。

その後、観測する予定の、以下の4天体を紹介しました。

  • 美しい渦が見える回転花火銀河(M101)
  • 渦巻きのない銀河が多く存在するおとめ座銀河団(M86)
  • 中央に黒い帯が見えるソンブレロ銀河(M104)
  • 2つの銀河が衝突しているアンテナ銀河(NGC4038)

観測する天体の説明を受けた後、観測に移りました。観測では、予定していた4天体をiバンド(赤外線波長よりのフィルター)、rバンド(可視波長よりのフィルター)と、ナローバンドフィルターN6590(水素特有の光を通すフィルター)を用いて観測しました。

2日目はまず、生徒たちは観測した画像データから星とガスがそれぞれの銀河でどう分布しているのかを調べました。 最初はただ見た目で判断して、それぞれの感じた結果を班全体に発表しました。それぞれの銀河を見て感じた傾向を、生徒たちは丁寧に説明していました。 その発表を踏まえて、生徒たちはそれぞれの銀河でのガスと星の分布を数値化することに挑戦しました。

iバンドを用いた画像には、銀河内での星の光が写っているのに対して、ナローバンドフィルターN6590を用いて観測した画像には、星とガスの光が写っているので、 画像を比較することで、星とガスの分布を調べることができるからです。しかし、その分布を科学的な数値に直すことは難しく、お互いに議論をしながら考えていきました。 最終的には、自分たちで考えた手法で、銀河内のガスの量を推定していきました。

3日目には、2日目に考え出した手法でそれぞれの銀河内のガスと星の量を推定しました。 その結果を用いて、それぞれの銀河の年齢や、銀河の形がどう変化していくかを考察していきました。また、発表会に向けてこれまでの議論を整理していきました。 発表会では、理解が難しいような推定手法をほかの班に向けてしっかりと解説し、そのうえで、将来的な研究計画も発表していました。

3日間の研究の中で、手探りの中解析手法を自分たちで考え、そしてそれをほかの班に伝えるという、非常に難しいことを成し遂げていました。 それは、班の中で積極的に意見を出し合い、そして、出てきたアイデアを積極的に実行していったことが実を結んだように感じました。 また、議論の中でおかしいと思った点を指摘し、それをとことん議論していく姿勢は我々TAも学んでいくべきだと感じました。 このように積極的に議論し、考え、思いついたアイデアを実行する姿勢を、これからも大切にしてほしいと思いました。

C班 中間発表の様子
C班 中間発表の様子
(記: 陳)

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