授業風景

島根県立松江北高校出前授業

日時2010/12/10
場所島根県立松江北高等学校
対象松江北高等学校高校理数系、普通科理系2年生
担当者藤貫、穂坂、大木、宮田、金澤、寺川、深瀬、村仲、市川、山村

島根県立松江北高校において、総合的な学習の時間に90分の出前授業を行いました。

生物の分野からDNA、数学の分野からオイラー数、物理の分野からロボット、電波、航空の計5つの講座を開講しました。講座は、それぞれが映像や実験を取り入れた構成になっており、生徒さん方は授業内容に対して強く興味を持たれたようでした。また、今回の講師は全員が現役で研究を行っている大学院生ということで、研究者の生活や進路についての話もありました。受験や大学生活、研究について考えるきっかけになったことと思います。

以下、各講座の紹介です。

講義名: DNAから見る生命の不思議~情報としての生命、生命としての情報~

講師: 藤貫直子 (慶應義塾大学大学院 基礎理工学専攻生命システム情報専修)

この授業では、まず大学とはどんなところか、大学生活がどんなものかを、時間割やカリキュラムさらには実体験の話を通して、生徒に身近に感じてもらいました。次に、後半のDNA抽出実験の本質を理解してもらうために、DNA、RNA、タンパクの関係について講義しました。その後、英語の論文に挑戦してもらうため、DNAの二重らせんの構造を初めて提唱したワトソン&クリックの論文の冒頭部分の読解に挑戦してもらいました。生徒達が苦戦をしながら英文を読んでいる様子が非常に印象的でした。さらに、「プラナリアの生殖転換の原因遺伝子の解明」という自身のプラナリアの研究を通して、生物系の理系の大学生の研究生活を知ってもらいました。また、授業の中で、大学生活を実感してもらうため手渡した大学の試験問題やネイチャー誌に生徒達が強い関心を寄せていました。

後半では、授業の核となるDNA抽出実験を行いました。はじめに、実験操作や各操作の意味を説明した後、生徒達に班ごとに分かれて作業をしてもらいました。普段教科書でしかDNAを学んだことのない生徒達にとって、肉屋で購入した鳥のレバーからDNAを取り出すという作業は非常に新鮮なようで、皆熱心に取り組んでいました。最後に、今回のまとめと理系のキャリアに関する紹介して授業を終了しました。授業後、生徒達が藤貫さんに質問しにくる姿が記憶に残りました。

藤貫講義風景
藤貫講義風景

講義名:位相幾何学入門~オイラー数をめぐって~

講師:穂坂秀昭(東京大学大学院数理科学研究科)

位相幾何学入門と題して穂坂がドーナッツを用いて位相幾何について生徒さん方に講義を行いました。

授業開始早々に数学の授業にも関わらず教卓におかれていたドーナッツとワッフル、カップ、それとナイフを用いて話を始め、位相幾何学とは穴の数を見る幾何学だと穂坂が紹介します。続けて位相幾何学の例や高次元での定義へと入っていき、次元という日常では触れない概念に生徒さんは難しい印象を抱かれているようでした。位相幾何学のキーワードとして立体の角、辺、面から求められるオイラー数を生徒さん方に説明し、実際の計算を通してオイラー数の計算方法を掴んで貰いました。ここから本番として角や辺のない球面のオイラー数を求めて頂こう、ということで実物の球面としてドーナッツが教卓に現れます。どよめきと共に笑みがこぼれていたのが印象的でした。穂坂の「実験試料なのでまだ食べないで下さいね」という注意の後、生徒さん方はドーナッツを三角形分割法という手法で慎重に切っていきます。ドーナッツとはいえ実験試料ということで、生徒さん方のドーナッツへの眼差しは真剣そのもの。オイラー数の計算も新しい概念をつかみきれずに苦戦しているものの、熱心に議論しながら計算されていました。それぞれのオイラー数を求めたところで、穂坂が教卓上で解説をします。生徒さん方は教卓に集まり、ドーナッツを見つめながら注意深く穂坂の解説を聴いているようでした。

最後に位相幾何学によるドーナッツの簡単なオイラー数の求め方や、高次元でもオイラー数が適応できることを紹介して授業は終わりましたが、生徒さん方はすぐには帰らずにドーナッツを食べながらオイラー数の話などをされました。数学という堅いイメージのジャンルですが、ドーナッツのお陰で生徒さん方には興味を持って聴いていただけたようです。

穂坂講義風景1
穂坂講義風景1
穂坂講義風景2
穂坂講義風景2

講義名: ロボナビ~移動ロボットのセカイ~

講師:大木健(東北大学大学院工学研究科航空宇宙工学専攻)

大木は、ロボットが障害物を避け経路を自分で考える方法について授業を行いました。

まず、赤外線センサーが紹介されました。レーザー距離センサーの計測した結果をスクリーンに表示して。生徒さんはセンサーの周りを動いたり、手を動かしたりと熱心にセンサーの動きを観察していました。次にロボットが障害物を感知する例が紹介されました。

ロボットが障害物を認識し、目的地までの経路をロボットに考えさせる方法が紹介されました。生徒さんには、ロボットが行う経路探索の作業を3パターンおこなってもらいました。今回行ってもらった経路探索の方法は、スタート地点からゴールまでをマス目で区切り、進める場所上下左右に数字を書き入れ、1マス進むごとに数字を1つずつ増やし、ゴールまで数字を書き入れたところで任意のマスの隣り合う8つのマスの内一番数の少ないマスをたどってスタートに戻るというものでした。生徒さんの中には一番レベルの高い経路探索に苦戦している人もいるようでした。講義の中では、レベルの高い質問も出され、終始充実した授業となりました。

大木講義風景
大木講義風景

講義名:目で見て考える電波のお話し~星も!?地デジも!?ケータイも!?~

講師:宮田英明(早稲田大学先進理工学研究科物理学及応用物理学専攻修士)

この授業では、普段身の回りにあるのに気が付かない目に見えない電波を、見ることにより電波の正体に迫りました。

はじめに電波とはどのようなものなのか、電場と磁場の関係から説明していきました。そしてオシロスコープを用いて電波を目で見てみました。日常生活している世界に電波が存在していることを確認してもらい、その電波はどのくらい(何ヘルツ)なのかあててもらいました。電波を自分の目で見たり音で聞いたりすることを通して電波に興味を持って頂けたと思います。実習では生徒さんに自己相関の計算をしてもらい、ラジオやテレビはいろいろな電波が混ざっているのになぜ聞こえるのかを確認してもらいました。実習中は計算結果を見てこれで良いの?と思った生徒さんも多かったようですが、最後にはラジオやテレビの電波の仕組みが分かったのではないでしょうか。終わりに電波で宇宙を見るとどうなるのか、様々な電磁波を用いてとられた画像から星々の出す電波が見えることを学びました。

この授業を通して、電波が身近にあふれていることが分かったのではないでしょうか。電波のことをあまり知らない生徒さんが多かったので、新鮮だったのではないかと思います。これからの生活でも電波が身近なものだと感じて下されば幸いです。

宮田講義風景
宮田講義風景

講義名:紙飛行機から宇宙へ

講師:金澤慧(総合研究大学院大学物理科学研究科宇宙科学専攻)

紙飛行機について学びながら航空宇宙工学へ、をコンセプトに授業を行いました

導入として戦闘機や旅客機など4つの飛行機の写真を見せ、「はやく飛べそうな機体は?」という質問をすると、多くの生徒さん方は翼の形に着目して正解を導きだすことが出来ました。翼が斜めになっている機体は音速に近い速度で効率よく飛ぶためのもの。その原理を聞いて、感覚として認識していることを物理の側面から考えることの面白さを感じていました。また「遠くまで飛べそうな機体は?」という質問には、翼の大きさに着目して考える生徒さんが多く見られましたが、発表では様々な意見が出て面白かったです。解説で、各機体のL/D(1mの高さから飛ばした距離)が発表されると、グライダーの数値にみな驚いていました。飛行機の説明の後は、実際に紙飛行機を飛ばして距離を競うチーム対抗戦を行いました。試験飛行の回数を1回に統一したので、チーム内であれこれ議論を重ね、長く飛びそうな紙飛行機を作ろうと真剣でした。中には斬新な形状の紙飛行機をいくつもつくるチームもあり、大変盛り上がりました。測定した紙飛行機のL/Dと、実際の旅客機などのL/Dを比較し、旅客機などの性能の高さを実感しました。もっとも飛ばした班はL/Dが戦闘機に迫る紙飛行機を作ったということが分かり、たたえあっていました。

紙飛行機という誰もが遊んだことのある素材を使って考察することで、生徒さん方は航空宇宙工学という分野に親しむことが出来たようです。

金澤講義風景1
金澤講義風景1
金澤講義風景2
金澤講義風景2

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